石井竜也の母校「北茨城市立大津小学校」の33人が語った
「あの日のこと、これからのこと」が一つの歌に 世界の絆〜命にありがとう〜 (NHKテレビ番組『課外授業 ようこそ先輩』より)
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2012年1月21日に放送されたNHKテレビ番組『ようこそ先輩』の中で石井竜也が、母校の子ども達一人ひとりと語り合い、子ども達の言葉を紡いで制作した楽曲がこの「世界の絆〜命にありがとう〜」です。
初めは堅い表情だった子ども達も石井が発した「大人も怖かった」という言葉をきっかけに徐々に心を開きはじめました。
今までどこか触れないようにしてきた「あの日のこと」をあえて「怖かった」と言葉にすることでこれから未来に向かって生きて行く子ども達の心に闇として溜まっていた何かを一つ取り除くことができたらならと願います。
番組放送後、全国の学校関係者はじめたくさんの皆さんから、この歌の歌詞と楽譜が欲しいというリクエストを頂きました。
被災地の子ども達はもちろんのこと、当時のニュースの映像をみて心痛めてしまった子ども達など全国の子ども達にもこの曲を届けて頂ければと思います。
※視聴、譜面ダウンロードはPCサイトにてご利用ください。
福島と茨城の県境に位置する僕の故郷は今や瓦礫はすっかり片付けられ、半壊だった家も処分されていき着々と“何もない街”になっています。
故郷の原風景が殺伐としていく様子には、言葉も出ません。
ここの子ども達は、この風景を、毎日の登下校で見ているのか・・・と思うと、胸が締め付けられ、心が痛みました。
俺の母校の小学校には、6年生が33人。
性格は、一人ひとり様々です。
まるで人間の性格の標本のように感じました。
「こんなにも人間って、多様だったっけ?」と思わずにはいられないくらい、一人一人の個性は、輝き、元気で、まぶしかった。
でも、彼らが一瞬にして凍り付くように異常に冷静になる瞬間があったのです。
それは『地震』『津波』『放射能』。
この三つの言葉に、彼らはうつむき、口を閉ざします。
これらの「心の奥底の闇」に彼らは小さな胸を痛め、苦しんでいる事が、手に取るように解りました。
その事については子ども達に限らず、地域の住民の方々まで口を開きません。
それが『あきらめ』なのか『意地』なのかは、初めは解りませんでした。
でも一人一人と話すにつれ、それが何なのかが、やっと解ってきました。
故郷は、「忘れようとする気持ち」と「忘れられないトラウマ」
そして「どうしようもない無力感」に苛まれていたのです。
「考えても、どうしようもない」というところまで、追いつめられていたのです。
・・・・俺はショックでした。
震災は、彼らの中に完全に刻まれてしまった恐怖なのです。
夏も海水浴ができないというのは、この地方の子どもにしてみたら、目の前のおいしいお菓子を食べられないに等しい事なのです。
子どものいない、天気のいい日のグラウンドはとてつもなく広く、痛ましい程にまぶしい。
そこで遊ぶ事もままならず、時間制限に縛られた日々。
大人だって、こんな状況、耐えられません。
テレビ番組の企画として、初めは『個性と一人の可能性』をテーマにだるまを使った「顔魂」という作品を一緒に作ろうと思っていたのですが、そんな子どもたちの表情を見た僕は、今、一番大切であろう、『自分の恐怖と向き合ってみる』にテーマを方向転換することにしました。
子どもは、正直です。
「心の鏡」に「闇」を映すのが怖いのです。
その気持ちは痛い程伝わってきました。
こんなに幼いのに、もう日本中の事や、大惨事での犠牲者を、自分の事のように考えて心配する、12歳の男の子と女の子。
クラスの全員一人ひとりとゆっくりと語り合い、そして口では言えなかった心境をノートに書いてもらうことで、大人からも聞けないような成熟した言葉が集まりました。
暗くて怖かった・・・
机の下にいた時が怖かった・・・
お母さんが、来てくれてありがたかった・・・
家がつぶれたと思った・・・
死ぬのかと思った・・・
10日間も、水がなくて、苦しかった・・・
家族がいてくれてよかった・・・
この33人のために曲を作るという事は、日本中の子ども達に曲を作るのも同然と思えました。
そんな状況で、こんな俺に心を開いてくれた子ども達の勇気ある行動に、是非、拍手をしてあげてください。
2012年1月 石井竜也