MIND BBS 〜掲示板〜

とある冬の出来事。

石井竜也

21.12.26 06:55

時節柄あまり、外に活発に出ていくことのない俺にとって、コンビニに行くにも考えなきゃならない事も数々あるんだ。テレビなんかに出た次の日なんかは、やっぱり、恥ずかしくて、家から一歩も出かけたりしないようにしているんだ。まあ、ちょっとした職業病かな?言葉の雰囲気とかで傷ついたりするのが嫌でね。そんなある日の夜、どうしても、壊れてしまったドアノブを直す為、ドライバーセットが必要になって、本当に仕方なく、もこもこの冬装備で、外に出かけた。幸い、この都心のど真ん中でも、まだ午後九時を回ったばかりなのに、流石に人の数は、まばらだったな。俺は、いつも行くコンビニでも専門用品店でも、大体行く店は決まっているんで、人に会わないように、まっすぐ、裏道をこそこそ歩いていくんだけど、その日は、普段とは違った。普段は全く人が通らない寂しい、路地裏・・・というより、マンションとマンションに挟まれた「隠れ路地」ってとこかな?しばらく歩くと、ハイヒールの音が後ろから聞こえてくるから、仕事帰りの女性でも歩いてきているんだろうと、最初はあまり気にならなかったんだ。ところが、流石に背の高いマンションに挟まれた細道だけあって、その足音は、寒くなるこの時期の空気にさらされ、かなりはっきりと聞こえてくる。もちろん「誰が歩いているんだ?」と、顔を見るなんて失礼極まりないので、気にしないように、まっすぐ前を見て、少し、早歩きで歩き出したんだ。すると、その瞬間、後ろから聞こえてくる女性らしき靴音も、俺の歩くスピードに合わせて、いくらか、早歩きになるんだよ。咄嗟に思ったのは、俺が歩くのを遅くして、彼女に「追い抜かれれば、いいんじゃないかな?」って事だった。だからかなり遅く歩いて、スピードを落としたんだけど、不気味なことに、後ろの女性らしき足音が、スピードを緩める気配は全くしないんだ。むしろ、この寒い夜に、マラソンでもしてるかのように、かなり早いペースで、俺を追い抜くような雰囲気だ。俺としては、後ろからそんな早いスピードで追いついて来られるよりは、さっさと追い抜かれた方がいいと思っていたので、なんとなく、後ろの彼女が歩きやすいように、道を譲るような雰囲気で右側の壁に寄っていった。ところがそこで、とんんでもないことが起こったのだ。俺の背中2〜3mのところで、足音が止まり、足を引き摺るようなズルズル・・・といった、足音に変わったんだ。流石に薄気味悪くなった俺は、小さな声で、「急いでいらっしゃるなら、どうぞ・・・」って、声を出してみた。俺は、「すいません・・・」とか、「ああ、大丈夫ですよ・・・」とかの日常にありふれた言葉が返ってくるものだとばかり思っていたが、返事が返ってこず、何分も待っていた。ここで寒さは、体だけじゃなく、もう体の中まで、恐怖に代わっていった。勇気を出して、俺は明るい笑顔で、後ろの女性の姿を見ようと、一気に首を後ろに回して、この薄の悪い状況を打破するべく、女性を確認した。・・・その秒数、一秒にも満たないと思う。・・・いないのだ。俺の後ろを歩く人など、誰もいなかったのだ。でも、自分の後ろ2mを歩くハイヒールがどれほど大きく聞こえるか?なんて、女性ならわかるでしょ?この路地裏を早く抜け出したくて、嫌な汗をかきながら、早歩きで向こう側の大通りに出ようと、今度は俺が、早歩きになっていった。やっと、人が行き交う大通りに出ると、不思議と今起こった恐怖の記憶は、自分の気の迷いだったのかも?と思うようになっていった。かなり、早歩きで歩いたもんだから、路地から大通りに出るちょうど角のところで、膝に手をつき、中腰になると、そこには、ジュースや、お菓子などの他に、花が添えられていた。「ここでだれか亡くなられたんだな・・・」と、考えた瞬間・・・俺は急いでこのエリアを脱出するべく、走ってコンビニに向かうのだった。今でも、片方だけの赤いハイヒールが目に焼きついて離れない。お菓子や花を供えるのはいいと思うけど、ハイヒールを片方だけ一緒にお供えするのは、なしだよ。もちろん、帰りは、遠くなることも人目も気にせず、遠回りの道を選んで帰ったのは、言うまでもない。・・・それにしても、何故、俺だったんだろう?もっと、取り憑きやすい人はいると思うんがが・・・。

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