その世代だけが持つ美しさ。
石井竜也
13.02.15 04:41
人間は、生まれて何十年かしたら、死ぬ。もし、人生を、こんなあっけらかんとした、言葉で締めくくってしまったら。いったい俺たちはなぜこの世に生まれてきたのか?生まれた直後から、死に向かって生きて行くという事?・・・違うんだな。時間は一瞬の集積と考える。一瞬一瞬が層をなして、一つの川になってる。流れは、急流もあるし、大河に出る時もある。又、せき止められてしまい、途中でダムか、湖になってしまう時もある。生きて行くという事は、その過程に意味がある。何でもそうだ。俺たちはあまりにも出来上がった物だけで、身を固めている。その気に入った物が、どんな人がどんなに精魂込めて作ったか?なんて、殆ど考えない。だいたいは、「これいい〜〜〜買っちゃおうっと!」酷い時には、その感覚さえ忘れて、引き出しの奥で、時代や流行に遅れて、結局一回も袖を通さずに、バザールで売ったりして。一つの物を作るという事が、どんなに尊く、どんなに大変な過程を辿って作られたかなどは、「お金を出してるんだから当たり前」と思う。そもそもそこに人生を楽しくさせない要因が潜んでいる。思い入れの強い物とは、そこにあなたの美学なり、信念なりの方向があるはずなのだ。それを「これがはやっているから」とか「みんな着ているから持っているから」とかで、判断する事と、自分本来の美学を後ろにおいて、そういう「時流でしか物事が考えられない事」が、そもそも、間違ってる。実は、インドのサリーが好きなのに、どっかのブランドの名前に負けてしまう。街を歩いている自分の姿は、何の個性も感じない、ただの人だな・・・とも思わない。いかにも、そういう社会に埋没する事が安心と思い込む。・・・いや、無理矢理にそう思い込むようにする。それを、20年もやってると、麻痺が起こる。見て誰でも着てるこの目立たないブランド物のコート。今最高にはやっている物を身につけているから、あたしは今、最高になじんでいるはず。・・・でも何か足りない感覚だけは、心のうちには、こびりつくように離れない。達成感や、人とか社会常識とかに縛られ過ぎた結果、そこそこの自分しか出せないのだ。ただ、それが幸せなの・・・と思い込んでいる。つまりは他人の目や、仲間はずれになる事だけを怖がって、生きる孤独な人生。家庭を持っても、一般的に良い仕事だと思われているところにいても、何か足りない。何かにたどり着くには、時間と、面倒な遠回りもしなければならない。だから、手っ取り早い方法を選ぶ。だって、目の前にあるから・・・。でも、よくよく考えてみると、そのものは100%に近い自分の好きな物でもないのだ。俺たちは、時々こういう過ちを、見過ごして生きている・・・というより、そういった「あこがれ」に似た物で我慢している事が多いのだ。「徹底的に自分探しをするなんて、贅沢」とまで思っている。ところが、人生において一番エキサイティングで、達成感があるのは、物でも人でも職業でも、何でも、本当に自分が求めている事を理解出来る事こそが、もの凄く重要に思うんだな。つまりは自分の中に一本の美学と言う理念を、備える事。これは人が生まれた直後から死に向かって生きているんじゃないか?という一見『真理』とも思えるような事を、受け入れてしまう事に他ならない。人生は金太郎あめじゃない。どこを切っても同じような顔は絶対に出てこない。どの世代にもその世代にしか出来ない自分自身が隠れているのも知らないで、気がつけば、体は衰えて行くのを感じて行く事になる。時代と、周りに奔走し、翻弄される人生は、あっという間に過ぎる。そりゃそうだ、人のために自分も時間を使っているんだから。自分ために自分の時間を使う事は、決して悪い事じゃない。だいたい誰かのために今自分は時間を使っている事が人のため、社会のため、家庭のためになると思ってはいないか?これが大きな間違いなんだな、自分にしか出来ない事を、見つけた時の喜びと興奮は、死ぬ事すら怖くない信念を育てる。これを持ってしての恋愛や結婚、子育て、介護なのだと思う。よく「自分を見失う」という事を言う人がいる。でも、それは案外、最初から自分探しも、自分の探求も、本当の自分の個性も追求なんかしていない人の言葉だ。そりゃあ、人生順風満帆なんて事は、誰もないだろう。でも、一度でも、自分の中に可能性や、美学を持つ努力をした人は、たとえ、死ぬまで本当の満足のいく自分が見つけられなかったにしても、ただ流されて生きている人に比べたら、天と地ほどの差がある。「これって、あたしじゃない・・・」と思ったら、早いとこ、そこを引き払うべきだ。「だけど義理があるし・・・」なんて事を考えていたら、人生なんか一瞬だ。ただしそれは、尻尾を巻いて逃げる事じゃない。負けじゃないんだ。あくまでも進化ための、成長するために必要な変化なんだ。それにそう思った時点で、君はもう、その場所にしっくり来ていない自分に気がついているはずだよ。これが本当の勇気だと俺は、思うんだな。