歌の力
春菜
13.02.16 19:31
認知症の女性の付添いの仕事を始めて5カ月半になります。
私は、フルタイムの女優、パフォーマーを目標にしつつも、アルバイトを掛け持ちしながら舞台を続けています。
この仕事もアルバイトの一つ、となるはずでした。
出会ってすぐに、どうやら歌が好きらしい、と知ってから、レストランでの食事の待ち時間に「中学の時に英語のクラスで習ったんです」と言って、You are my sunshine を歌ってみたのです。
そうしたところ、さっきまで「私は何を注文したの?」と何度も聞いてきた彼女が、一字一句間違えずに一緒に歌ってくれたのです。
しばらくすると、隣のテーブルにいたおばあさんやウエイトレスも一緒になって歌ってくれました。
彼女の住んでいる立派な施設には、1階のロビーから吹き抜けになった場所にグランドピアノが置いてあります。
以来、私がピアノを弾きながら一緒に歌うことが日課になりました。
そのうちに、他のおじいさん、おばあさんも集まってきて一緒に歌ってくれるようになりました。
ドイツ生まれのおじいさんが、ドイツ語で歌ってくれたのは、私が小学生の頃にどこかで習った「かわいいオーガスチン」でした。すぐに弾くと、一緒に歌ってとても喜んでくれました。
先日は、とあるおじいさんを訪ねてきていた小さなお孫さん3人も一緒に歌ってくれたりして、10人くらいの大合唱になったりしました。
1歳半から87歳まで、人種も関係なくみんなが一つの歌を歌って笑っている・・・まるで映画みたいですけど、現実にそんなことが起きて、私はピアノを弾きながら泣けてきました。
おじいさんおばあさん達は戦争を体験した世代だから、当時ならば「敵」だった日本人の私。
決して遠い昔のことではないけれど、それでも、今こうして一緒に歌って笑顔になるという現実がある。
この頃では、施設に行く度に、「何か歌ってよ!」とか、「今日もピアノ弾く?」とか、あまり面識のない方も声をかけてくれます。
認知症の彼女は、今では「ドレミの歌」を私と2人で作った振り付きで歌い、レパートリーも増え(と言うか、思い出し)、記憶力も驚くほど向上しました。彼女の歌は施設内でも有名になりつつあり、歌を通して友達もできました。
彼女の感情の起伏が激しくなって、「いくらなんでも!」と思うこともしばしばあるけれど、それを笑いに変えて返すのも、最高の「即興演劇」の実践編!(笑)
ある晩、彼女が寝静まってからリビングで日誌をつけていると、突然彼女の寝室から歌声が聞こえてきました。トイレに起きて、またベッドに戻るまで、夢うつつの中で、一人で朗々と歌っていました。私は、切なさと嬉しさと、何とも言えない気持ちで、泣けてきて、一人静かに涙を流しました。
歌の力―――。
他のことをどんなに忘れようとも、歌は魂に刻み込まれていると確信する日々です。
今まで、自分自身の探求と芸術のために続けてきた歌が、また違う形で私を成長させてくれています。
少しでも、彼女の心に寄り添っていられれば・・・と思います。
切ない話もたくさんあるけれども、こんな話もあるよ、ってお伝えしたくて・・・。
