SPECIAL2 〜特別企画2〜

Chapter1. 郷土の文化を理解したうえでの復興支援を

石井 地震・津波もそうですが、北茨城は放射線の打撃も受けてしまっていますよね。潮の流れだけは人間にはどうすることもできないので、大変な被害になっちゃうじゃないんじゃないかなと心配で。


豊田市長(以下市長)  今石井さんのおっしゃるように、潮の流れはどうすることもできません。原発の問題については人災ですから、非常に大きな問題に発展してますよね。大津港、平潟港は打撃もいいところですよ。漁ができないんですから。


石井  セシウムの量がどうとか言われても、目に見えるわけでもなんでもないじゃないですか。機械によって安全な魚が安全じゃなくなってしまうことのないように、政府も一貫したレベルの均等化を図らないと。僕も漁師町で育ったからわかるんですけど、漁師の皆さんは、他に生きる道を考えていないですよ。海が好きで漁をするということに命をかけてらっしゃる方が多いので、気位も高いしプライドもあるし、そういう人にまた違う仕事でやってくださいといったって、できないんです。特に東北にかけての人間性はそういうところがある、郷土に根差した文化があるというところを、少し政府も分かったうえで復興していかないと、自殺者が多発してしまいますよ。


市長   本当ですよね。心配されているようにね、北茨城の平潟漁港は約年間20億の水揚げ量なんですよ。石井さんが出身の大津は70億。それが壊滅になると北茨城市も市自体がおかしくなります。それ以上に、世界がおかしくなります。


石井   それでなくたって若者が減っている時期に、ある意味漁獲量がそれなりにあれば、若い人だって戻ってくる可能性はあるのに、こんなに風評被害が広がっちゃえば、若い人も来なくなっちゃう。過疎化がどんどん進んじゃって、どうしていいいか分からないんじゃないかなと。日本の中でも温度差はありますよね。じゃあ漁を辞めて仕事すればいい、くらいにしか思っていない人もいますから。なんで逃げないの?早く。とか。


市長   心の問題をどうするかということが重要で、漁師には魚をとる楽しみがあったんですよ。農家には農作物を作る楽しみが。その楽しみを奪ったら、おっしゃるように過疎になるのは当然です。それでその生活をしていく、糧にしていくことができなくなっているわけですから、非常に厳しい。ご指摘の通りですよ。


石井   俺は西日本で行ったコンサートでも、東北地方に住む人々の精神構造から説明して言ってるんです。北茨城は東北にごく近いので、東北の人間の精神構造や町の構造はよくわかっているんです。テレビで見てると笑顔だから、東北の人は強い強いと言われているけれども、関西の人達は出す方ですから分からないわけですよ。僕はそこから説明しているんです。笑っている人は心では泣いています。全ての人が泣いて話していると思ってください。東北の人は、マイクを向けられたり、人に話を追いかけられたりすると笑顔で答えるのが儒教のようなものを持っているんです。どうしてもそういう表情になるんです。でも気持ちとしては真反対なのを、それだけはわかってくれというのを僕はずっと言い続けているんですよ。


市長   東北に近い北茨城ですから、生まれ育っていて風土もわかってらっしゃいますからね。内に秘めやすいということはあると思うんです。


石井   それと東京に出ていった息子よりも、隣の吉田さんの方が大事だと、そういうコミューンで皆肩寄りそって生きているんです。自然が厳しいからそうでもしないと生きていけないんです。そういうことを念頭に入れた支援をしてほしいんです。仮設住宅にしても2階建てにしてコミューン同士で入れるようなものを作ったりとか。牛は殺さなきゃダメ、ペットも置いていかなきゃダメなんて、人間の生活じゃないじゃないですか。中には子どものいない老夫婦だっているはずです。可愛がっていた犬だっていたと思う。その人にとってみたらペットとはいえ子ども同然じゃないですか。そういう状況をよく考えたうえでの復興、復旧にしてほしいんです。東北の人間に東京の文化を押しつけているんじゃないかなという気はしますよね。理不尽な政策を国がとっているということは、同じ公務員としてみたときに、今テレビでやっている政府の体温と、地元の体温ではだいぶ違うんじゃないですか?


市長   おっしゃる通りで、今テレビでやってますけど、仮設住宅一つとりあげても、2階も駄目だと言われているんですよ。北茨城市は仮設住宅を10軒しか申し込まなかったんです。後はいらないと。とりあえず1年ですから、北茨城市は民間アパートを借り上げようと。それを三陸の方に、福島の方にそれを渡すことが先決だったんですね。それと3日前から、福島の牛の姿を見て、悲しくて悲しくてね、北茨城に牛を連れてこようという運動をしているんです。20キロから30キロ圏内に15000頭いるんです。


石井   一部ではもう餓死しちゃってますよね…。


市長   ハエがたかっちゃって死ぬ一歩手前ですから。新潟の地震の時は、山古志村の牛は政府が助けて、今も生きているんです。それが今回できていないんです。誰が悪いんだか…。人間が移動するときは当然家畜もいるわけですから。


石井   家畜もそうですが、原発が爆発したわけだから、あの瞬間にまず真っ当な国の長であれば、妊娠している女性と、10歳以下の子どもは、泣こうが叫ぼうが30キロ圏外に避難させるのは当たり前だと思うんです。2週間3週間親父と会えないかもしれないけど我慢してくれ、今は危ないからもう少し待ってくれというのが、国民と国家の在り方じゃないですかね。


市長   そうですよね。


石井   どう考えたって、爆発ですよ。たとえ爆発じゃなくて不具合が起こったにしても、まず一番大事な命、これから未来を作っていく子ども達と、今赤ちゃんを身ごもっている女性は一番弱いわけで、そこを避難させないというのは、おかしいと思うんです。バスだってあるはずだし、北茨城市だって頼むからバスを出してくれと言われれば行きますよね。それができないのは、何なんだろうと思いますね。


市長   北茨城は爆発した時に5100人の避難者がいたんです。それでもいち早く2300人を引き受けるから、さあいらっしゃいと。現実に来たのは277名しか来ませんでしたけど、現実に来ています。政府は指導ができたはずなんです。


石井   パニックになるのはわかりますよ。でもこういう極限状態の中でパニックはしようがないと思うんです。パニックになるか人が死ぬかどっちを選ぶかといったら、パニックの方がまだいいですよ。


市長   それがまさしく指導なんですよ。指導力なんです。