SPECIAL3 LATER 〜特別企画3・その後〜

Chapter3. 顔も見ることのない、孫の先の世代のために何を残すか

大谷  今回僕らは、醜さもいっぱい教わって、何が大事なのかということを学べている気がするんですね。政治も見たし、経済も見たし、被災も見たし、自分の中の良さも悪さも見てきたから、その中でどれが一番大事なのかをきちんと取捨選択をして、落としどころを決めていかなければならないのかなと思いますよね。


石井  今は政権運営がむちゃくちゃになっちゃってるけど、これでいろんなことがわかったんじゃないかな。これでわからなかったら、この国は無い方がいいんじゃないかとも思いますよ。一つの間違いからいろんなことを勉強できますからね。そういう間違いを見ることで、こういう人は駄目だ、こういう人に託さなきゃって、人を見る目みたいなものが多少なりとも国民はついたんじゃないかという気もしますよね。それと“他力本願”はまずいということもわかった。誰が作ったのかわかりませんけど、よくぞ“他力本願”という言葉を作ったなあと。あれは言い得て妙ですよね。“全部譲ってしまって、ハイどうぞ、あとは全部やってください”それで世の中がうまくいくと思っていたら大間違いだったと。


大谷  今、東南アジアの国の中で一番元気がないのは日本なんですってね。日本以外の国はみんな元気なんですって。


石井  ガンガン伸びてるんですよ。


大谷   日本がだめならアジアも全部駄目かと思ったら、日本だけが駄目なんだって。ここから跳ね上がったら強くなれるけど、そのためには本当にきちっとしたことを訴える人が出て来ないと、テレビの細切れの誰かが作ったコメントを読んでいるだけじゃ駄目ですよね。


石井   本当に西洋化したいんだったら、西洋のいいところ悪いところを徹底的に勉強してから西洋化していくならいいですけどね。ちゃんと歴史を学んで、自分達の信仰心とか本性をわかったうえで、文化文明を作っていかないと、何もならない国になっちゃいますよ。


大谷   本当にそう思います。僕は今回、仏教の勉強をもう1回しようと思ってるんです。一応プロで30年やってきてるんですけどね。


石井   この間、同じようなことを聞きましたよ。海外で活動している考古学者が「日本に帰ろうと思ってるんです」って。「今日本を勉強し直さないと。人間は自然から逃げられないけれども、その逃げられない人間達がどうやって生き抜いてきたのか、これは考古学にとってとても大切なんだ」と。「とんでもないペストが流行ったのに、何故ヨーロッパ人は助かったのか、そこがわかってないと、金の延べ棒を掘り当てたから偉いとかいっても、それは学問でもなんでもない。だから僕は今、日本のことをもうちょっと勉強しなきゃいけないな」って言ってましたね。


大谷   僕は被災地でお母さん達に「子ども達の時代になった時に、子ども達が津波が来ても逃げられるような街づくりをすることが、残された命に与えられた課題じゃないですか」って自分で言いながら、久しぶりに大きな課題ができたと思ったんです。宗教者として、この命を何のために使うのかということを考えた時に、僕は顔も見ない子ども達のために、何かをすることだと今は思ってるんですね。


石井   なるほど。


大谷   自分が直接手を出せる子どもは、手伝いもできるじゃないですか。自分の孫まではなんとかできるでしょう。でも孫の先は手だしができない。その孫の先に生き方として何か残してあげることが大事じゃないかな、って思って。


石井   今回作った「つよくいきよう」という曲は、詠み人知らずにしようと思って、“作詞・作曲/日本”としてるんですよ。何代か後にこの歌がもし歌われることがあって、その時代にも、人生に行き詰ったり、いろんなことはあるでしょう、そんな時にこの曲がその人の助けになればいいなと思ってるんです。それが俺の本望だな、って。俺の宗教心はそこにあるかもしれないなって。だからできるだけ簡単なメロディーで、直接的でわかりやすい言葉で連呼するように作ったんです。


大谷   歌って、人を恋するとか愛するといった内容が多いじゃないですか。


石井   一番問題ないですからね、そういうことを歌っている方が。


大谷   だけど最近の風潮をみていると、生きることについての考え方だったりと、ちょっと歌が哲学的になってきてるなと思って。哲学の基本は“どううまく生きられるか”だから、今おっしゃっている直接的な単純な言葉で訴えていくことを続けていけば、もうそれでいいんだろうなって思うんですよね。毎日毎日法話していて、別に評価されなくても、たったワンフレーズがそこに居る人の中の一人でも救えたら、それで俺の人生十分かなと思うようになった時に、むきになることもやめたし、数をたくさん集めようというのもやめたんです。何が大事かなって。僕の茨城のお寺の16棟の建物のうち、残すのは1棟だけで、あとは全部無くすんですね。やれ作れ作れと箱物行政でできたお寺だったんですが、今回、液状化で駄目になったんです。皆さんは「今度どうするんですか、何を建てるんですか」って言うんですけど、今までのメンテナンスや、今回壊れたこともそうですが、前の人達が残したもののツケを払ってきた僕としては、そういうことが発生しない、ミニマムでありながら活動に有効な場所にしたいと思ったんです。聞けば22m下にある岩盤までパイプを打ちこめば、液状化は起きないらしいんですね。だから僕が今考えているのは、建物は建てないで、パイプだけ打とうと思っているんです。いざというときに、皆が逃げてくれる広場になれば、それがきっと救いになるんじゃないかなと思って。これだけ厳しい状況だと、そもそも人工で作られた町だし、町ごと移住したらとも思うんですよ。だって一つの小さな町で800軒も家がつぶれてるんですから。でも移ろうにも、皆そこに生活があるから移れないんですね。お寺も維持も大変だから無くすという方針も一度は出たけれども、一番にお寺が逃げるわけにはいかないし、何より仏様を動かしちゃいけないと思って。だからこの悪条件の中でも、仏様がいらっしゃるこの場所を、救われる場所にしていくことが大事なんじゃないかなと思って。


石井   石巻に行った時に、傾いてはいるけれども残っている神社があったんですね。その神社に、地元の方なのか自衛隊の方なのかはわかりませんが、皆が集めてきた神棚が山積みになっていたんです。それを見て、ああ、こういうことなのかと思ったんですよ。流された神棚をどこに捨てたらいんだろう、でも瓦礫や土砂と一緒に捨てるわけにはいかないと。まだまだ人の気持ちも捨てたもんじゃないなと思いましたね。特に漁師やお百姓さんが多いと、自然と対峙して生きている人達だから、信仰心は厚いんだろうなと思ったし、だからこそ、こんな期間で立ち上がり始めることができているんだろうなと思いましたね。


大谷   今回ご位牌を取りに帰って亡くなった方がたくさんいるんですよね。


石井   お年寄りが多いから、そういうものや家系を大事にしますからね。


大谷   だけど神棚を返されるなんて偉いね、みんな。


石井   俺そう思いましたよ。捨てたもんじゃないなと思いましたよ。涙が出るというか。


大谷   この間被災地に行った時に、一人で海をまわってお経をあげてきたんですよ。


石井   僕も海をしばらく見ていました。石巻の海がまた、綺麗な海でね。いやでも建てちゃいけないですよ、あんな近くに家は。あのエリアに家が密集していたと思うと、ゾッとしましたね。


大谷   仙台から江戸、今の東京まで出てくるのに、東街道(あずまかいどう)という街道があったらしいです。古老の人に聞いたんですが、東街道よりも海側には行っちゃいけないと言われていたそうです。一つには塩で農作物が育たないから生活ができない。もう一つは津波が来るから危ないと。なのに何故駄目だと言われていたエリアに人々が入っていったかといえば、土地改良をしたんです。塩の入っている土地を塩抜きして、危なかった海岸も護岸工事をして、人工的に作って入って行ったところが、全部今回やられているんだそうです。


石井   見ると砂なんですよね。ああいう地盤のところに家っていうのはあり得ないですよ。


大谷   建てちゃいけない。潮来の僕のお寺は、もともと沼なんですよ。沼の一番深いところの上に立っていたの。で今回、液状化で駄目になったんですよ。一番沈んだところで、1m10cm沈んだんですから。沼を埋め立てて、皆が少しずつ土地を寄付してくれて作ったお寺だったんですが、土地を寄付した人達はどこに住んでいるかというと、もともと沼ではない、土手の上に。


石井   (笑)


大谷   だから、その人達の家はほとんど痛んでないんです。沼を埋め立てて新しい町を作って、そこによそから入ってきた人達は、もともと沼だったことを知らないじゃないですか。で、皆やられたんです。僕は思いましたね。沼は沼という条件が揃って沼。海岸も海岸という条件が揃って海岸。


石井   僕は海で育っているからわかるんですけど、サーフィンが流行ってきた頃、東京の人達が田舎の海まで来るんですよ、いい波が来るって。でも彼らのいい波というのは、俺らは恐ろしがっていた“磯波”といって、硬い岩が下にあるから、そこで陥没して高くなる波なるんです。サーファーにとってみたらいい波に見えるんでしょうが、海底が穴になってますから、1回巻き込まれちゃうと、中でガチャガチャになっちゃうんです。死体もあがってきた時はボロボロですよ。だから、あんなところでよくやってるよなって、地元の人間は言ってました。


大谷   さっきの古老の話と一緒ですよね。地元の人が知るまでにも、たくさんの命が取られてるんですよね。


石井   1年に1艘くらいは沈むんです、岩にぶつかって。地元の人達のそういう昔からの知恵とか、土地勘というのはちゃんと聞くべきですよね。


大谷   遺伝子が知ってるんですよね。