SPECIAL 〜特別企画〜

Chapter3. 国内における風評被害、世界における風評被害

石井  うちの田舎は北茨城市なんですが、海に近いので津波の被害を受けてしまって…僕の作品を保管していた建物は泥に浸かっちゃいました。今の港は泥がひび割れた状態ですね。現地の人達が自分達で網を上げて、乾かして、と復旧作業をしていて。要するに誰も来てくれないんですよ。放射能の怖さもあるし、もっと北に比べれば比較的被害は軽少だろうということで、援助の手は北茨城市なんて通り越してもっと北に行っちゃうんですね。だから自分達でやるしかないんです。そんな中、幸運にも無傷だった船が、コウナゴを収穫するんですけど、放射線量が高いと言われちゃって、全く売れないわけですよ。自殺者が出たっておかしくない状態ですよ。


広河  誇り高い人ほどね。この間福島県で有機農業をやっている方が自殺したじゃないですか。


石井  キャベツ農家の方ですよね。


広河  とうとうきたか…と思いましたよね。チェルノブイリの時にドイツの有機農家をいくつか回ったんです。まず事故でやられるのはそういうところだったんですね。なぜなら普通の農家は、汚染された小麦を収穫しても、集荷場に持っていけば、安全な小麦と混ぜて使うんですよ。混ぜることで平均の汚染濃度が下がるので、そういうふうにして売り出すんですけど、有機農家はそんなことできないわけです。10年間かけて大事に土を作ってきて、体にいいからこそ、客がいるわけで、他のものと混ぜて売るわけにはいかないんです。そんな感じで、今まで生涯かけてやろうとした事がだめになったという喪失感は相当なんだと思います。


石井  田舎の人で自殺をする人はよっぽどなんですよ。もともと自然と一体になって仕事をしている人達だから、自殺なんて考える人はいないはずなんです。でもそれがここまで追い込まれているというのは、相当すごい被害なんですよ。それと俺は今回の報道を見ていてね、政府関係者が言っている言葉で一番頭にきたのは、「もし放射能が降ってきても、玄関に入る前に服を脱げば、シャワーを浴びれば大丈夫だ」みたいなことを言ったでしょ? あの一言が福島県や茨城県北部の人達に、どれだけ迷惑をかけたか。あの一言で、どこにも逃げられなくなっちゃったんですよ。その地域の人に放射能がくっついてるイメージを植え付けるようなことを言ったようなものでしょう?


広河  日本から海外に行く人間は、そのうち世界からそう見られるでしょうね。


石井  そうですね。日本人用の入国手続きが別個になるとか。日本に住んでいたフランス人の友達がいるんですけど、今回の件で向こうに帰った瞬間に、違う部屋に移されて、とんでもない検査をされたと言ってましたね。でも同じ外国でも、僕のファンで今カンボジアに仕事で行っている子がいるんですが、カンボジアの人達は自分達の生活ですら苦しいのに、日本のために寄付をしてくれるらしいんですよ。それを聞いた時は、おごっている国と、ひどい目にあった国の気持ちはこんなにも違うのかって。実験台のようにして人を見ていた国と、本当にひどい目に遭って、ボロボロにされた国とはこんなに違うんだと思って、温かいものを感じましたね。そういうカンボジアで起こっていることも、被災地の人にも伝わるといいなあと思って。