SPECIAL 〜特別企画〜

Chapter4. 何故代替エネルギーは発展しないのか

石井  このところ、震度5-6の地震が多発していて。あんなのが次々起こったら女川原発だって分からないですよね。


広河  浜岡原発もね…風が東京へ吹いてきますから。


石井  東海村だってまだ解体途中ですよね? 2018年で終わると言ったって、使用済み核物質は六ヶ所村に運んでも、全てが無くなったわけじゃないですよね。無くなるということはないんでしょうね。原子力というのは。


広河  『100000(10万)年後の安全』という映画があって、フィンランドが放射性廃棄物を地中深くに埋めるにあたり、最低10万年は安全に保たなきゃいけないと議論するドキュメントなんですが、途中で10万年前ってマンモスの時代だぞ、ということに気付くんです。今から10万年後に、今の言葉を解する人間はいるものか?と。大体人間がいるのか? そこに住んでいる生物に「ここは危険だ掘り返すな」ってどうやって伝えたらいいんだ?と。そもそも不可能なんです。10万年後なんて考えること自体が。


石井  人の記した歴史でも、大体七千年くらいしか、解っていないでしょ?しかし…アインシュタインの顔が見たくもなくなってきますよね。


広河  広島に相対性原理が書かれた碑があるのを知ってます? 僕びっくりしてね、なんでこんなものをここに、って。自分達をあんな目に遭わせたものを、女子高生かなんかの慰霊碑にわざわざ書いて…化学に対するとんでもない思い違いをしているんです。


石井  発展していくのはいいんだけれども、発展の方向がまるっきり違いますよね。原子力に関しては。インターネットが普及したとかそういう問題じゃないですもんね。


広河  一つ爆発すれば、戦争以上の人間の命を大量殺りくできてしまいますからね。


石井  ガンマ線と言われているものがもし炉心から放出していくと、それこそ鉛の家にでもしない限り無理なんですよね?


広河  ガンマ線の種類によって違うんですよね。だけど平均的に10分の1の量にするためには2.5センチの鉛が必要なんです。だけど10分の1くらいにしたって致死量が出るのが事故ですからね。爆発したら100分の1、1000分の1にしないと死んでしまう量が出ますから。そうすると2.5センチの鉛を着て歩く事も不可能だし、放射能から守る事は人間には無理なんですね。


石井  しかもMOX燃料を使ってたわけでしょう? 信じられないですよ。少なくとも東大だなんだと頭のいい人はいるんだろうし、そういう人は怖さも分かっているはずなのに。それを地震が多発している国に持ち込んでどうなるかなんてことは、想定外とかの話ではないと思うんですよね。


広河  意外とみんな金漬けにされてるんですよね。IAEAという国際原子力機関から、助成金とか研究費とかをもらっているもんだから、広島の学者もなかなか原発が良くないなんて言えなくなってしまってきている。


石井  長崎からも出てきましたよね。なだめる側の人が。


広河  そうそうそう。


石井  みんなお金をもらってやってるわけで…


広河  こういう時のために、そのためにお金を渡してきたんです。80年代から原子力の危険性を訴えてきた作家の広瀬隆さんと僕の2人を起用したということで、「朝日ニュースター」というCSチャンネルに、電気事業連合会という日本の電力会社の宣伝機関がスポンサーを降りると圧力をかけてきたんです。本当はそこのお金がなくなったらほとんど無くなってしまうくらいの大事なスポンサーだったんですが、プロデューサーは「ご自由に」と言ってその圧力を蹴った。そういうことを考えても、だから電事連は、あらゆる出版社とかにお金をどんどん広告費で入れているわけなんです。


石井  結局お金で自分の故郷を売ってしまった人達も、そういうことはどういうことかもわからず、説明もされず、それで今の状況に陥っているわけだから、実は彼らも被害者なんですよね。自分達の命とか文化とか、一番大切だったものを売ってしまう、経済の仕組みの怖さというか。


広河  祝島という島が山口県にあって、目の前4キロのところに上関原発を立てるという計画があるんです。その島の人たちは27~8年間、毎週月曜にデモをしているんですよ。500人くらいの小さな島のうちの9割くらいが反対運動に参加しているんです。初め島民は“原発はいいもんだぞ”と、ツアーに連れていかれるんですって。地元も栄えるしいいもんだと向こうは言うんだけど、島の人は漁師だから、漁業はどうなっているんだろうと気になって、普通の人が起きない朝の4時頃に起きて港に行って見たそうなんです。そうしたら貧しくなってしまった漁業の現場を見て、疑いを持ち始める。今度は島の奥さんたちを皆ツアーで綺麗な原子力の施設の見学に連れて行く。だけど、ここは立入禁止、ここは立入禁止…とあまりにも立入禁止が多いというので、彼女達も不信感をもつわけです。漁業では、はらわたをとったり、汚い部分を捨てたりして、最後に綺麗な形にして売るように、綺麗なところだけ見せられてその産業がわかるわけがない、どうも怪しいと、それで島の人達は、ずっと反対してるんです。周りの漁業組合は、どんどん原子力を作る方に流れていくんですよね。そこでものすごいお金が漁業組合に落ちていくんだけど、祝島の人達は、自分達に振り込まれたら突き返すそうなんです。何億と。それでもあの人たちは裁判にかけられても絶対に駄目だといっている。でも残念なことにものすごく綺麗な生物の宝庫であるその海に、この間土砂を入れられたんです。もう時間の問題になってしまった。でも今回の事故で、祝島の人達は正しかったということが実証されたんですけどね。


石井  国はそのまま工事をやり続けるんですかね。


広河  しらんぷりするでしょうね。


石井  はぁ…。


広河  今のところは工事を控えたり、中断したりするかもしれませんが、ずっと甘い汁を吸っていた連中ですから、東北を見捨てて、なかったことにしたらいいと思うんじゃないかと。


石井  代替エネルギーだってもっと発展していいはずなのに。絶対そこでボロ儲けしている人がいるからこそ成り立っている産業だと思うんですよね。


広河  そうですね。風力発電なんてもとは風だから利益を得るわけにはいかないけれども、原子力発電は、ウランの採掘から原料そのものが金になっていくものだから、これの理財はすごいわけです。20年くらい前まで代替エネルギーの取材をしていたんですね。日本の政府の中でも色んな省庁があって、運輸省は波力発電にしようと。それでいろいろ開発したんですが、ところがそれをつぶしにかかってくるわけですよ、原発産業がね。


石井  その代替エネルギーを作るための研究費が次々につぶされていく、…これだけ日本は火山国で地熱がいっぱいあるわけだから、地熱発電なんて簡単にできるはずじゃないですか。どういうわけで国の仕組みができているんだろうと、今回は根底からジャブじゃなくてアッパーカットされている気がしますよね。本当は一番ネガティブに考えた時にはこうだというのがあって、初めて政治は成り立つと思うんですよ。ポジティブな事ばかり考えて、政治なんて成り立たないと思うんですよね。最悪な時にこういうふうになってしまうから、これはやめておきましょうとするべきなのに、「ネガティブな事ばかり考えていたらなにもできないじゃないか」とか、それが美学になってしまっているのが、今の日本人の考え方の一番の問題ですよね。


広河  なにより原発を作った省庁と、チェックする保安院が一つになっているというのがね。


石井  おかしいですよね。保安院っていうのは検査して検査してチェックを3重にも4重にもして、それで大丈夫だったら大丈夫だけど。ちょっと駄目だったら駄目っていうのが保安院ですよ。基本的に反対派じゃないとおかしいんですよね。


広河  疑って疑ってね、むしろ東電が大丈夫だって言っても、疑うのが仕事ですからね。


石井  そうですよね。まあ今TVに出ている専門家の話を、せめて鵜呑みにしないということぐらいは発信しないとだめですよね。