SPECIAL 〜特別企画〜

Chapter5. 放射能に太刀打ちできないとわかったとき人々は…

石井  原発作業員で、亡くなった方が2人見つかったって言ってるじゃないですか。わからないですよね、津波で亡くなったのか、爆発で亡くなったのかは。働いている人がバタバタと来る時期がこないといいですけどね。チェルノブイリでは、爆発後に石棺を作ったじゃないですか。あの作業員もいたわけですよね。そういう人ってどうなったんですか?


広河  2年前に行った時に案内をしてくれた男性は、当時作業をしていた人で、7人のグループだったそうなんです。でもうち5人はもう死んじゃったんです、40代で。もう1人は事故が起こった後に、石棺作業の最初だけいてすぐ逃げてしまってどうなったかわからない。そして最後に残ったのは自分だけだ、と言ってましたね。


石井  チェルノブイリの映像を見てゾッとするのは、何も付けないで作業している人がいるんですよね。


広河  でも今の日本の白い防護服だって、付けてないのと同じですよ。埃についたプルトニウムが、人の口を通って身体の中に入るのはガスマスクで防いでるけど、それだけですよ。ガンマ線は何でも簡単に貫いて行くわけですから。中性子も。


石井  緊急状況になって情報が出た瞬間に飲む「ヨウ化カリウム」という錠剤があるじゃないですか。あれは飲んだ後に副作用が出ても本人の責任と先にサインをさせられるそうですけど…大丈夫なんですかね。


広河  妊娠している人は絶対に飲まないほうがいいんですよね。でもチェルノブイリの場合は、当時0~5歳くらいだった子どもが後で甲状腺のがんになる確率は圧倒的に高かったので、小さな子どもなら、副作用なんて言ってる場合じゃなく飲ませなきゃいけない。


石井  あれはやっぱり飲まないよりは飲んだ方がいいんですかね、そうなった時は。


広河  そうだと思いますよ。だけどその時になって配ってたんじゃもう間に合わないんです。福島の村なんて何十キロもあるから、薬をもらいに行くだけで30分かかったりね。さっさとみんなに配ってしまって、なんかの合図で飲みなさいとするべきなんです。東京だって間もなく必要になるかもしれない。


石井  そうですよね。


広河  あるいはもう既に…。チェルノブイリの時は日本でも放射線物質が出ていたでしょ。ヨウ素が。


石井  今東京でどうしようもなく仕事をしている、その感覚が、現実とかけ離れているような気がして。ネオンサインと飲み屋の看板を見ちゃうと、今起こっている事を忘れちゃうような。ものすごく愚かしい民族になったもんだなという気がしますよね。なんとかそういう考えを変えさせる術ってないものですかね。


広河  チェルノブイリの場合も、事故の前と後とで、価値観が変わったと思い始めたんですって。だけど恐ろしい放射能に対して、初めはなんとか闘おうとしたけれども、闘うこと自体がもう不可能だと思ったときに、ほとんどの人間はどうしたかというと、「忘れる、知らない、見えない、関係ないことにする、見えないことにする」だったそうです。


石井  人情といえば人情ですね。


広河  多分今回もそういうことになってくると思います。


石井  因果関係は全部消されていくんですよね。


広河  そうそう。あれは本当に人災なんですが、あまりにもすごい結果になってしまったら、加害者だけでなく被害者も「見ないことにする」んです。

-対談中に余震発生-

広河  揺れてますね…向こうに住んでいるとこれの何倍かで動いてるんですからね。


石井  毎日ですからね。生きた心地がしないでしょうね。


広河  女川原発の最後の一つがね、非常用電源がこんなので断たれているかもわからないし。


石井  福井県なんてねえ。


広河  あそこも地震の断層地帯ですよね。次いつ来てもおかしくないですからね。あと六ヶ所村にも巨大なタンクに日本中の原発の使用済み燃料を何千本と入れてますよね。あそこには80キロの活断層があるらしいですね。


石井  はぁ…


広河  それがこの間の地震で動かなかったんですって。でもいつ動いてもおかしくない。そうすると…


石井  あそこが崩壊すると言うことは、世界レベルで危ないですね。


広河  福島の何百倍ですね。


石井  ねぇ…


広河  僕が編集長をしている雑誌『DAYS』の1月号で、浜岡原発の原発震災の特集をやったんですよね。そこでの筋書きが場所だけ違って福島で全部起こっちゃった。津波が来て電源が奪われたらどうなるか、道がズタズタになって電源が失われたら何が起こるかを示したんです。


石井  しかし核を落とされた国が、核を保有しようとする、あそこまで徹底的にひどい目に遭っておいて、いくら抑止力だからといって、そこに結び付けるのが俺は意味がわからないですね。


広河  核エネルギーの平和利用と、爆弾の利用を、アイゼンハワーが分ける演説をしたんですよね。平和利用ならいいということで。日本には非核三原則があるけれども、その核とは、核爆弾だけにして、原子力発電所の核は別物にしましょうという宣伝がうまくいったわけで、それで今までどんどん作ってきたんです。