SPECIAL3 〜特別企画3〜

Chapter7. 「つよくいきよう」は、自分が自分に向き合って歌う、ひとり言のような歌

石井  今回何かできないかと思ってサイトを立ち上げたりしたんですが、何一つ自分は答えられてないなと、気がつくわけですよ。原発に対しても、なんだよあいつらよ、と今さら言ったって、今までそれを容認していたのは俺じゃないかと。知らなかったということもやっぱり罪ですからね。


大谷  福島の人はめっちゃ怒ってましたよ。東京の人が、原発反対、ドンドコドンドンってデモ行進をしているのをテレビで見て、“お前たちの電気を俺らが作ってるんだろう”って。安全なら東京に作ればいいというのはその通りだと思う、僕。だけどそれも、皆で出してきた答えですよ。日本民族が出した答え。だから日本民族が出した答えはやっぱり国民で共有して苦しまないといけないし、国民で解決していかなきゃいけない。


石井  自分の命はどうだっていいと、とにかくこれを止めなきゃと思ってやっている人もいるわけじゃないですか。トップの人のことを悪く言ったとしても、現場で命をかけて、放射線を浴びながらやっている人もいるわけじゃないですか。その人達には何の罪もないわけで。なんだか不思議なことが起こっちゃうんですよね。


大谷   さっき言ったように、全員が正常なコンディションにないから、答えは出ないよ。


石井   そうですよね(笑)。


大谷   それがわかるだけでも僕ね、すごく重要なことだと思いますよ。


石井   ある意味それはちょっとだけ心に近づいていることかもしれないですよね。わからないということがわかっただけで、助かることっていうのはありますよね、確かに。


大谷   石井さんは真面目なんですね。


石井   お袋の血の方が強いのかな。お袋の家系は皆先生なんです。そういう姿もみちゃってるからか、どうも困っているとか言われると何かやってあげなきゃとか変な正義感がわいてきたりするんですよ。だけど所詮は、体力も知力も心力も大したことないのに、突っ走ったって何もできない。助けられるような自分じゃないのに、何か立ち上がっちゃうところがあるんですよね。


大谷   社会的にも影響力があるし、自分でもそれをつかんでこられたがゆえに、やっぱり頂いたものに対してお返しをしたいという気持ちがあるんでしょうね。僕も今回は何かをしたいんじゃなくて、一番やりたいのは「お返しをしたい」んですよ。


石井   そうですね。確かに。


大谷   だけどお返しができない。でもおっしょさんの言葉なんですけど、「親に恩返しをするということは、何も温泉に連れて行くことでも、肩をもむことでも、プレゼントをすることでもない。自分がまともに生きることが、それが恩返しだ」って。僕がまだ実る前におやじが死んじゃって恩も返せない、って思うけど、僕が出来る一番の恩返しは、僕がまともに人生を全うすることだと思っているんですよ。


石井   俺この間、お袋が久々に怒ったのを見たんです。「なんかこのままだと、お袋より先に逝っちゃうかもしれないな」って言ったんですよ。そしたらもう「何を言ってるの」って、火がついたように怒って。「いやいや冗談だよ、冗談」って言っても「冗談でもそんなこと言うんじゃない!」って。


大谷   親は自分の身を削って子を育てて来てるんだからね。


石井   そうですよね。自分の伴侶も亡くしているお袋の前で、俺はとんでもないことを言っちゃったなって。涙がこぼれそうな目で怒られたんですけど、人の生き死にだけは本当に冗談にならないなって。俺はこんな時なのに、なぜそんなことを言っちゃったのかなと猛反省して。やっぱりおかしくなってたんですかね。


大谷   みんなおかしいよ。本当におかしい。だからそのおかしいことがわかればいいんですよ。今までの僕らの生き方もおかしかったし、今震災を頂いて、また僕らもおかしい。だけどここから、どういうまともになっていくかということを、命とか、自分のできることとかをミックスして考えていく意外に僕はないと思いますよ。つらくてしゃあないもん。


石井   そうですね。


大谷   小学校や中学校でこれから未来がある子達が、飛んじゃってるわけでしょ。許せないじゃん。


石井   どんな言葉を、というか、言葉が無いですよね。そのことについてはね。


大谷   例えば僕が死んで、1000人の子どもが救われるんだったら、代わってあげたいと思いますよ。だけど代われないじゃないですか。代われないならどうするかといったら、僕らがその悲しみを引き受けて、そしてそれを子孫の代の幸せの材料に作り変えてあげるしかないんです。茶杓と一緒ですよ。捨てられる竹を茶杓にして、茶をすくうものとして活かしていくように、取り返しのつかないものだけれども、僕らがどう次に残す手伝いができるか、それ以外に答えは無いと思う。だから僕は影響力のある石井さんのような方は、歌でやっぱり今度の苦しみや悲しみを超えていこうというのを表現して、たとえワンフレーズでも皆が口ずさんで、それが応援歌のようになれば、石井さんは被災地に行ってがれきを運ぶ必要もないし、一緒に泣く必要もないと思う。悲しみを抱えながらも夢を描けるような、それでも生きていくという気持ちを、口ずさんでしまうようなものを提供できれば、それが石井さんのファンだけでも、接点のある人だけでもいいと思うんです。大きなことを言わなくたって。被災した人達何十万人が口ずさまなくても、たった1人でも2人でも口ずさんで救えるのならば、僕はそれはすごいことだと思う。


石井   そうですね…


大谷   恥ずかしい話だけど、昔の僕は100人の法話会に行ったら、100人に納得してほしい、大谷徹奘は面白いからと、100人が本を買ってくれるような自分になりたいと思ってやってきたんですよ。でも今は全然そんなことは思わない。今日僕が1時間半の自分の人生を使って話をした中で、たった一人でもいいから救われたら、これはすごいことなんじゃないかなと思うようになったんです。


石井   確かに人間というのは、マヒしてしまう動物ですから。そのお湯の中にどっぷりつかっていると、だんだん温度が上がっているのに自分が湯だつまでは気がつかないような動物ですからね。


大谷   (笑)


石井   自分の分をわきまえるのは、最低限度の礼儀なのかなと今は思いますね。このサイトでファンの子たちを救おうと思ってやったことが、逆にファンの子たちを苦しめちゃっているようなところもあるし、自分も苦しんでるようなところもあるし。


大谷   いやだけど僕は思うんですけど、それを全部ひっくるめて引き受けてミキサーにかけて、一つの形で返せばいいんじゃないですか。


石井   歌を作ったんです。もうそれこそ全部忘れて、今、一番苦しんでいる人に向かって、自分が向き合えるような歌を歌わなきゃダメだなあと思って。あまりいろんな事を考えるのはよそうと思って、一番素直に出てきたメロディや、素直に出てきた言葉を歌っている曲なんです。でもそれも、こういう経験をしたから、こういう気持ちになれたんだと思うし。やっぱり時間のなせる技なんでしょうね。時間というのはありがたいものですね。


大谷   その歌を聞かせてもらうのを楽しみに待ってますよ。


石井   「つよくいきよう」という曲で、「つよく・つよく・もっと・つよく」とずっと言い続けている歌なんですね。上目線で、みんなでがんばるんだ、みたいなそんなんじゃなくて、“私は、強く生きたい、私は強く生きるんだ”と、人に唄うんじゃなくて、自分に歌っているような歌がいいと思ったんです。ひとり言のような歌がいいなって。


大谷   石井竜也という人が成立してるのは、石井竜也一人では成立しないわけじゃないですか。全然血の繋がっていないような、会ったこともないような人がファンだといって応援してくれる。だからその人達が苦しんでいることイコール、自分が苦しんでいることになる。だから今回、仲間の苦しみを通して、自分が生きて行く糧として出てきた言葉なんでしょうね。石井さんは今回苦しまれて、そして今もその答えを模索されている。このことは、人間を熟させるための材料なんだと思うんですよ。


石井   そうですね。


大谷   これだけ苦しんで、皆さん方のところへ出ていって、いろんなことをお考えになられて。だから夜寝られないんだよ(笑)。


石井   そうなんですよ、いやもう本当にね。


大谷   まともな人だから(笑)。


石井   なんだか終始、俺の悩み相談みたいになっちゃいましたけど。今日はお時間を頂きありがとうございました。